コレスポンデンス─ 友への手紙
アルベール・カミュ(1913-1960)は、フランス領アルジェリアに生まれた。 フランスとアルジェリアの2つの故郷を持ち、20世紀激動の狭間に生きた。不条理を描いた小説『異邦人』で名を馳せ、当時最年少でノーベル賞 に輝くが、46歳で交通事故により不慮の死を遂げてしまう。カミュは著作 を通じて、人間とは平等の光と自然の恩恵を受け、自由を享受するべく 存在し、暴力のない真の尊厳を持ちうる権利があることを訴え続けた。
貧しい幼少時代を過ごした生命力に溢れるアルジェの街。海と光に包まれたティパサの遺跡。ドイツ占領下、レジスタンス運動が活発だった南フランスにあるル・シャンボン・シュール・リニョン。(この近郊にある小村パヌリエに滞在中、カミュは小説『ペスト』の執筆をした。)これらの場所が彼の創作活動におけるインスピレーションの源として挙げられる。
1954年、フランスからの独立を懸けたアルジェリア戦争が勃発。アルジェリア全土で激しい戦いが繰り広げられ、無差別的暴力やテロが市民を巻き込みエスカレートしていった。そのような中、カミュは1956年にアルジェにて市民休戦を呼び掛けたが、それも失敗に終わる。こうして、愛する2つの祖国のあいだでカミュの心は引き裂かれていった。
カミュが葛藤と苦悩の只中にあった時期に、存在していた一台のカメラ がある。私の父親が愛用していたものである。私はこのカメラを手に取り、カミュの創造の源となったアルジェリアとフランスの地を巡り、カミュが生きた時代の残像とそこに息づく光を写した。そして、対話が始まるような一対の写真として、ここに収めた。